武本康弘監督は『〈古典部〉シリーズ』をどう『氷菓』したのか

とタイトルを決めましたが、私自身の推論を述べるつもりはありません。本作品には至る所にキーワードが散りばめられており、何をピックアップするかで、解釈はいくらでも変わります。文集『氷菓』の真実を暴いたときのように、たたき台として自分の案を挙げるのも良いと思います。しかし、私はまだ答えを出したくありません。
もうほとんど自分の答えは出ているのだけれど、まだ、もう少しこのまま。
この作品から受け取った気持ちを言葉で決めてしまいたくないのです。

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それはさておき、最終回とても驚きました。武本康弘監督『フルメタル・パニック! The Second Raid 』最終回の画面とよく似ていたからです。

セカイが変わるスローモーションとフィルター


緊迫する対峙シーンでオレンジ色


ラストシーンの二人の背景



他にも自分を見つめなおす鏡演出や、海千山千の相手、ゆかな先輩の警戒しないでくださいアピールといった遊びも見えたりして。ここまでくると、もう明確な意図があって引用していると考えるべきでしょう。

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思えば制作陣を聞いた時にも驚きました。というのも、小説原作をアニメ化する際に、別の小説家がシリーズ構成を担当したからです。米澤穂信『〈古典部〉シリーズ』は学園を舞台とした日常の疑問を解き明かすミステリーです。『魍魎の匣』や『屍鬼』、『Another』というように、ここ数年ミステリーのアニメ化が盛んでしたが、当然映像を中心とした脚本家がシリーズ構成を担当しています。
フルメタル・パニック!』シリーズの著者賀東招二は、自作のアニメ化に対してシリーズ構成を務め、その後も幾つかのアニメ脚本や、オリジナル作品のシリーズ構成を担当しています。ただし、いずれも手がけた作品はミステリーではありません。畑違い、ジャンルを超えた小説を分解し、アニメへと再構成させる起用は異例といえるでしょう。

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ところで『〈古典部〉シリーズ』はラノベか否かという話があるようです。これは掲載誌やレーベルの変遷、著者の発言や活躍の場の乖離といった事が関係しているようです。装丁についても調べてみました。

2作目までは角川スニーカー文庫、3作目以降は角川書店の四六判として出版されているのですが(後に全て角川文庫化)、ラノベや一般向けといった枠だけではなく、作品ごとに方向性がバラバラです。あえて明確な対象を定めていないような印象を受けました。
第19回米澤穂信さん】@きららfrom BookShops 書店員さんが今気になる作家に熱烈インタビュー

米澤……装丁やオビの言葉などには全くノータッチです。

角川書店は自作を映像化し、宣伝するメディアミックスの得意な出版社です。ただし、どの層にアピールしているか掴みかねるこのシリーズで、アニメファンに狙いを定めたというのは、意表をつく戦略だなと思いました。

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そして制作会社である京都アニメーションといえば、まず思い浮かぶキーワードは【原作通り】です。しかし先に挙げた通り『〈古典部〉シリーズ』には具体的なビジュアルイメージがありません。そのため京都アニメーションは原作付きのアニメ化で初めてキャラクター原案を担当することになりました。
折木奉太郎が初めて千反田えるを観た時の印象を引用させて頂きます。

黒髪が背まで伸びていて、セーラー服がよく似合っていた。背は女にしては高い方で、多分、里志よりも高いだろうと思われた。


しかしアニメ第1話の千反田えると里志の初めての邂逅では、ほぼ同じ身長のように見えます。

氷菓』表紙には登場人物が4人いるにもかかわらず1人見切れています。依頼者であり、1人異なる中学から上がってきた千反田えるが見切れていると考えると、小柄な茶髪でロングの女の子が伊原摩耶花となります。それをショートカットにデザインし直したのは、思い切った変更だなと思いました。(ただし愚者のエンドロールでは外ハネのショートカット)
ちなみにキャラクターデザインの話を探すといくつか考察されているサイトもありました。興味が有る方はぜひ覗いていただければと思います。

そして最後に〈ラストカット〉

ネタバレ注意、両作品を最後まで観たことがある人だけ開いてください。

フルメタル・パニック! The Second Raid 』最終話、絵コンテ演出:武本康弘

氷菓』最終話、絵コンテ:武本康弘、演出:武本康弘石立太一
アバンのピンクの空間が印象的だった第3話演出:石立太一が、最終回も担当しています。二人の足元に合っていた焦点がそっとずれ、つくしへと移ってこの話は閉じられます。

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類似した、対照的なこの光景に思いを馳せながら、今回記事を書かせていただきました。その想いは『氷菓』最終回を観た時と何一つ変わらないものですが、形となったのはtatsu2さんの呟きや、流星、夜を切り裂いて 〜FLY HIGH〜さんの記事を始めとした、多くの方のおかげです。稚拙な、論考にすらなっていない、散文的な私の記事ですが、彼らのような武本康弘氷菓』を探る手がかりの一つになれば幸いです。