フリーミアムモデルによるアニメビジネスの中で一人勝ちした化物語と今後の指針

アニメビジネスをフリーミアムモデルで考える@未来私考
フリーミアムとはリンク先によると

「コンテンツやツールを無償で提供しても利用者のうち5%くらいは積極的に対価を支払ってくれる」

それが深夜アニメに適用できるデータとして

地上波U局の視聴世帯数は数百万円の関東ローカルでもせいぜい1500万世帯ほど。そこで視聴率3〜7%を取っても50万人〜100万人にしかアピール出来ない。(フリーミアムモデルの)5%ルールに当てはめれば2万〜5万本のセールス見込みになるわけで、見事なくらい現状のアニメパッケージの市場規模と合致してますね。

経験則でなんとなくわかってはいたけれど、こんなに一致するデータがあったなんてと愕然とする。これって要するにアニメを見る層のうちパッケージを購入する層というものは5%であるという理論。
面白いと思った漫画はほとんど買うという友人も、アニメのパッケージを買う基準はわかりにくいという。それはパッケージの高さと併せて、1クールの中複数の作品を楽しんでいる多くの視聴者がどういった基準でパッケージ購入に踏み切るかがわからないということだけれど、この理論を当てはめることで非常にすっきりする。

そもそもアニメファンにとって、パッケージを購入する最大のインセンティブは何か、という問題です。

深夜アニメを購入する目的とは”面白いから”や”何度も見返したいから”ではなく、コンテンツを無償で提供してくれた際のお礼として対価を支払う事であるという事。ここで重要なのは作品に対してのお礼ではなく、そのシーズン内でアニメを提供してくれたアニメ業界に対してということ。だからアニメ視聴者は数ある視聴作品の中で自分の財布の範囲内で対価を払う作品を選択する。

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リンク先の記事では、だからこそ市場を広げることが重要で、放送枠が安いニコニコ動画をはじめ、ネットを使った配信を薦めている。これは有名だと思う市場原理の”池の中の魚”理論で、市場である池を広げない限りターゲットの魚の数は一定で、見込める成果の総計は安定するというものからも非常に合理的な考え方だと思う。が、ここでは同じ池の限られた魚の中でどうやって他よりも多く魚を釣るかを現在1巻パッケージが7万枚売れている化物語を例に考えてみる。
化物語が売れた理由を考えてみる@Daisukのよ〜わからへん!
価値を感じるポイントは人によって異なる。面白いからというのも十分な価値ポイントではあるが、所詮それは前提条件であるともいえる。最終回まで通して見てもらった作品の中から購入するタイトルは選別されるわけで、面白いと思っていない作品をいったい誰が最後まで見てくれるのだという話。
化物語は面白さといった主観的な価値ではなく、パッケージとしての価値と作品の目新しさにより同時期に放映された作品の中から多くの人に選ばれたのではと考える。キャラクターによるコメンタリーや、キャラソンの付いた豪華な特典による付加価値。これらは作品を最後まで見た視聴者への購入への動機づけとしては強力である。作品自体も主人公への罵倒を中心とした会話劇、部分アップや黒駒に類するシャフト特有の映像表現といった一線を画す作風であり、視聴感覚が同じような作品が並ぶ中で明確な差別化がなされている。ただ映像が奇抜なだけでなく、その作品構造が美少女ゲームに則った、オタクにうけるものであったことも非常に大きな点だといえる。話としての求心力があり、そのうえ他のアニメとは異なる視聴感覚によって多くの人の関心を集めることが可能であった。
この流れを上手く誘導したのはほかでもないアニプレックスである。アニプレックスはこのシーズンの新作は化物語一本のみであり、宣伝対象は必然絞られる。7万枚という売上を記録したのは対抗馬の涼宮ハルヒの憂鬱がこけて、良い意味で一番の話題に昇ったことが要因ではあるが、パッケージにつける特殊な特典の選考や、他アニメに比べて発売日を先行するといった様々な点で顧客を逃がさないような工夫が見て取れる。売れるべくして売れた作品が化物語なのかなと。

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一つとある動画共有配信サイトのデータを出すと、化物語涼宮ハルヒの憂鬱の再生数は20万とだいたい同じだった。他は15万いけば多いほう、青い花は5万とかそんな数字だった気がする。多くの作品を横断的に見るであろうネットでさえそれだけの差が開くのだから、テレビで直接ないし録画等で間接的に視聴する場合はより顕著であると思う。ただしこういったデータは個人で集めるものよりも圧倒的に企業の方が有利であるから、こんな些細なことは把握してるんだろう。
一本に宣伝を絞る方式で売上を記録したとは言ったが、確実な売り上げを見込める作品を複数出すことでリスク分散と安定な売り上げが見込めるのは事実である。そして来年は製作本数が一気に下がるという見込みであり、本数が絞られた場合の作品内容の固定化と併さることで市場の縮小につながると危惧するのだけれどはてさてどうなることやら。
元記事では深夜アニメの本数の急激な上昇と、最近の下降傾向に対して

録画して見るにしてもその全てをカバーするということが物理的に不可能になってきている。アニメファンの「もっと新作を!もっと!」という声に答え続けた結果、ついにそのキャパシティを突破してしまったというのが現状の頭打ちの原因なんだろうと考えています

製作本数の減少はもはや市場原理からも自明だけれど、一本一本の価値を高め、他作品と競争しあってくれればと一アニメファンとしては思う。
追記:自分で書いた記事に対して「空中ブランコに見るシナリオの既視感」という内容で、奇抜な演出は視聴者を突き放す結果、様々な作品におけるシナリオの使いまわしという事実を浮き上がらせるのかもという思いがあるけれど、多分書くことはない。